余市川 3

http://d.hatena.ne.jp/kawauso999/20090927 のつづき


増水時のこの左岸は深く、頭から飛び込めるいい遊び場になる。
春はここを泳いでいたという軌跡を追うと、その空間は今は空中なわけで、泳ぐのは飛ぶのに似ているな、と少し思う。
陸上では常に重力に引かれ、頭上の大気から押しつけられているということを、水中では実感できる。
重力の井戸の底、という表現を本当に理解できるのは宇宙に出た人(毛利さんは余市出身)だけだろうけれど、空を飛ぶ人と泳ぐ人にもその片鱗を感じることはできるだろう。
プールでだけ泳ぐ人にはたぶんわからないだろう。



艇の底をガリガリ擦る浅瀬もある。
ダッキーであればそれほど神経質にならないが、ファルトボートであれば船体布の摩耗と損傷がとても気になる。
増水時期なら素通りできるのに!、とストレスを感じるのではなく、逆にこの浅瀬を楽しむゆとりがほしいところ。


艇を長持ちさせたいし、相棒をいたわる気持ちで、歩く。
ライニングダウン、という。
ロープとパドルを使うと便利。パドルは艇に置いてももちろんいいが、陸上を歩いて艇だけ川を流す時には、パドルで少し岸から離すように押したりする。



下るにつれて、広くなる場所もある。
こんな場所は流れも遅い。
やや深く、そこを泳ぐ鮭は浅瀬を泳ぐ鮭とまた違って美しい。
虹鱒が弾丸のような素早さで泳ぐのよりは少しもったり感があるが、そこに長旅の疲れやら何やらを感じて、また少しせつなくもなる。



適当な川原で上陸した。
適当、というのは、その前で泳げることと、流木があることが条件。
少し高いところに、増水時期にひっかかったのがたくさんあった。


マッチ・ライターは必需品。煙草を吸わないパドラーの中には持ち歩かない、または忘れる人もいる。
濡れると使えないので数か所に分散している。ロウでマッチをコーティングしたりする防水対策や耐水マッチを買うという手もあるだろうけれど、僕は複数個所に分散して収納することにしている。
そのうちのひとつは、ライフジャケットの背中に、ジプロック袋を二重にして入れている。
万一身一つで流されて上陸したときに使えるかもしれない。
袋の中身は、マッチ・ライター・カットバン・ガーゼ・小さく巻きなおした布テープ。
ガーゼと布テープがあれば、骨折の添え木や裂傷の押さえにも応用できるだろう。
その他、ライジャケの前面には濡れても吹ける笛と、リバーナイフを常備している。どちらも重要。
ナイフは先のとがったものがいいはず。障害物と船体に挟まって流れに押されたときに、鯨の腹を割いて脱出するようにナイフで船体を裂くのには、やはり先が尖っていないと厳しいだろう。


焚火で暖まる。
暖まる、という物理的な効用以外に、精神に与える好影響が大きいのが流木の焚火。
木を切って燃やすのと、流木を燃やすのではその効用が大きく違うと思う。気のせいだろうか。木のせいだろう。


僕自身焚火の達人というわけではないが、そこそこ上手なほうではあると思う。
慣れない人、センスのない人、もたまにいて、これまでに何人も見てきた。
コツはいろいろあるが、大事なのは着火材集めだろう。
「着火剤」を使うのは恥ずかしいこと、と、僕の仲間たちは認識している。紙も使わずに着火したい。
こんなのがあればもう火はついたも同じ。


こんなのがあると、もっと楽に着火できる。


つっつき棒で形を整えながら。
上写真の着火したての焚火は不格好だけれど、だんだん自分好みに馴染んでくる。
井桁に組まないのが、焚火を愛しキャンプファイアーを毛嫌う僕の仲間たちの鉄則。



焚火が安定したら安心して泳げる。
9月末の北海道の川で泳ぐ人はほとんどいなく、それは気温も水温も高くないから。
今回は軽量化のため、そして太ってキツキツなこともあってウェットスーツを持ってこなかった。
泳ぐと体が冷える、しかし泳ぎたい・・・ので、焚火で暖をとれるように準備してから泳ぐ。
泳ぐ→冷える→火で暖まる→泳ぐ→冷える→火で暖まる→泳ぐ→冷える→火で暖まる→泳ぐ→冷える→火で暖まる・・・を繰り返す。
23秒くらいで泳いでいるのは僕で、最後に出る鮭はまだかろうじて呼吸をしている。
川のすぐ脇で燃やしているのは、消火しやすいのと、ちょっと雨が降ってちょっと増水しただけで、焚火の痕跡がまったくなくなるから。焚火と流れの両方を同時に眺めて楽しめるというオマケ効果もある。しかし人数が多い場合は火を円くかこめないという欠点もある。水に浸かりながら火にあたる、ということもたまにあるが、それはそれで楽しい。

つづく →http://d.hatena.ne.jp/kawauso999/20090929