馬を食べない人


職場に来た同業者達が、馬刺しのおいしい店の話をしていた。その中で、その場にはいなかった共通の知人のことが話題に登った。その人は馬肉を、おいしいおいしいとモリモリ食べたいたらしい。でも、今まで自分が食べていたものが馬の肉だと知った途端、ゲーゲー吐き出したという。真っ青な顔をしていたと、皆が笑った。

その人は60代後半で、若い頃は馬と一緒に寝起きして、一緒に働いていたという。馬は友であり、兄弟であったのかもしれない。だから、馬を食べるなんて考えられず、知らずに食べてしまってうろたえたのだろう。馬以外の肉なら平気で食べるらしい。

「他の肉は食べるけれど馬だけダメ」、これは理解できる。馬に特別の愛着があるのだから。「風の谷のナウシカ」で馬みたいなトリが死んだ時に、食用にしないで埋葬に、という場面を思い出した。「犬と猫はペット」という概念に縛られている人々が、犬や猫を食べることを嫌がり、食べる人々を野蛮と罵るのに似ているだろう。「イルカと鯨は賢い仲間」と考える人々が捕鯨に大反対するのにも、たぶん似ている。

気になったのは。皆がその人のことを思い出して話す時に笑っていたこと。あからさまに見下して陰口叩く、といったかんじではなくて、単に思い出しておかしい、といった笑い方だったけれど、僕はとても気になった。

愛馬と一緒に艱難辛苦を乗り越えた記憶を持つ人が馬を食べたくない。それをどうして笑えるのだろうか?

「馬肉=食べ物」という考えを常識として脳にインプットしている人々にとっては、馬を食べないことは「非常識」なことであり、つまり笑いの対象であるのかもしれない。その笑った人がベトナムにでも行っておいしい肉を食べたあとに、実は犬肉だったと知り驚いて吐いたら、その時にはじめて、その人は理解できるのかもしれない。


僕はこれを忘れずに覚えておこう。
フルータリアンがうちに来て、知らずに大根を食べて驚いて吐いたら、もしかしたら僕は彼を変だと思い後で笑い話にするかもしれない。

鍋料理で他人の箸がはいったら食べない人、靴を脱いで車にのる人、寝るときも化粧する人などなどなどなど、僕はこれまでそういう人を馬鹿だと思っていた。



3月2日追記
「gachakoo」さんのブログ「ここがヘンだよ肉食大国ニッポン!」にて、馬肉食についての日記を発見。gachakooさんが紹介しているリンク先内のコメントなども、いろいろな人のいろいろな意見があり興味深い。
http://veganism.exblog.jp/2848377/